【雑感】2023.12.24 M-1グランプリ2023

【出場者】

真空ジェシカ

◯令和ロマン

ダンビラムーチョ

◯くらげ

モグライダー

ヤーレンズ

マユリカ

さや香

◯カベポスター

◯〈敗者復活〉シシガシラ

 

2015年に復活して以降、チャンピオンに選ばれるコンビに何かしらのドラマ性が生まれているM-1(例外は正統派コンビのガチ殴り合いになった2016くらい?)で、感動路線を突き進むM-1自体を腐しながら妬み嫉みを撒き散らしたウエストランドが去年の王者になったわけだけど、力強い情念で場を支配したウエストランドから一転、理論的にM-1を“攻略”した令和ロマンが優勝したのが、感動とは最も遠いチャンピオンという意味では昨年と地続きになっているような形だったのが面白かった。

 

近年特に盛り上がりを見せているM-1グランプリだけど、今年は敗者復活戦からインターバルなしで本戦に突入し、約7〜8時間近くぶっ続けで漫才を見せられ続けるという盛り沢山な内容で、前後の番組を含めたら12時間くらいM-1漬けにされるという凄い一日だった。今回は当日も仕事なく翌日も休み取れたから別に良かったけど、そうじゃなかったらなかなかキツかった気もするから、ちょっと日程は考えた方が良いのかも。

 

敗者復活戦のルールもガラリと変えていてどうなるのかなと思ったが、出番順の有利不利や人気投票になりがちだった部分が殆ど解消された形で、結果的に観ている側もかなり盛り上がれる良いシステムになっていた。知名度的にもこれまでのルールではほぼ間違いなく上がれていなかったであろうシシガシラが上がっただけでもこのルール改定は成功だったなと思える。

 

 

以下、本戦の感想。

①令和ロマン

少女漫画で良く見る遅刻しそうな男女がぶつかる展開についてのネタ。

唯一の同年代ということもあり割と応援していたので、まさかのトップで来ていきなりビックリ。若手のホープだしここでダメでも今回顔見せで次回以降間違いなく返り咲くだろうな……とか勝手にしんみりしていたが、まさかそのまま勝ち切ってしまうとは。

どっちかというと最終決戦でやった漫才コント的なネタの方が印象強いのでしゃべくりで来るんだと驚いたが、まずつかみで観客を巻き込んで自分たちの空気にした上で、ラフなお喋りみたいなネタで自分たちの性格をしっかり印象付けることで後のネタにも入りやすくしてると考えると流石の戦略という感じ。今大会で最終決戦まで残れると確信していたわけでは無いと思うが、錦鯉みたいに初出場で勝ちきれなくてもそのキャラクターを浸透させるのって大事だと思うし、十分その役目を果たしたネタだった。

 

②シシガシラ(敗者復活)

シシガシラのネタの中では良く見る合コンのネタ。コンプライアンスの中で配慮されていくものの中で何故かハゲだけが掬い取られないという一風変わったハゲ弄りだが、結構変則的なイジリが多いシシガシラの中では割とオーソドックスなネタで、ちょっとインパクトに欠けるところがあったのかなと思った。

松ちゃんの講評で「つかみのハゲ弄りが面白すぎて、ネタもハゲだったのがイマイチ」みたいなことを言ってたけど、だからこそ敗者復活でやってた、ハゲと口に出さずにイジるというカラオケのネタをやってたら爆発してたんじゃないかなーと思うとかなり勿体ない。アフタートークで、ダンビラムーチョモグライダーが歌ネタなので遠慮したというエピソードを語ってたけど、そんなの考えずにインパクトで後の2組にダメージを与えた方が良かったのか、大会のバランスを考えて選ばなかったのが番組にとって良かったのか、悩ましいところかも。

 

さや香

優勝候補筆頭が三番手で登場。

ホームステイを受け入れる事にした石井が緊張するので直前で飛ぼうとする……というネタ。去年の免許返納と同じく石井の異様な発言に新山がブチギレつつ、ボケツッコミの立場も二転三転するというスタイル。

個人的には三連単で3位につけていて、まあハズレはないだろうと思ったけど、思っていた以上にハマらなかったかも。もちろん細かいワード選びとか面白いし、構成も文句ないんだけど、新山がギアを上げるのが早すぎる感じがして、初っ端の「エグい」連呼とか、顔面をグーン近づけるツッコミを序盤でやったりとか、最初からそんなに怒ることある?と思ってしまった。

得点はかなり伸びて、邦ちゃんがまたバグって98点付けたりしていたが、松ちゃんだけ令和ロマンから1点下げて「令和ロマンには負ける」とハッキリ口に出したところの採点のブレなさに痺れた。優勝候補でもちゃんと80点台付けられる人は貴重よな。

 

④カベポスター

学校に伝わるおまじないについてのネタ。

去年の大声大会のネタは綺麗な構成の良いネタだったけど、ほっこりエピソードという感じがもう一つハマらないところだったんだけど、今回は終始核心を突かないのに嫌な事を言い続けるという性格の悪いネタで良かった。こういうネタの方が永見の優しそうなのに目の奥が笑ってない雰囲気にあってると思う。

邦ちゃんが昨年から10点も上げててオイオイと思ったけど、よく考えると昨年も老人イジリの真空ジェシカに高得点付けてたので、こういう悪いネタが好きなのかと思うと意外とブレてないのかもしれない。

 

マユリカ

倦怠期の夫婦のネタ。

何故か常に顔面蒼白なボケの阪本とやかまし女形の中谷の掛け合いが楽しいいつものネタで、何のネタ見ても面白いコンビな気がする。

安定はしてると言えばしてるけど、めちゃくちゃ刺さる感じも個人的には無いかも。倦怠期の夫婦という設定だけど、それっぽいのは最初くらいで、いつの間にか離婚するという話になってたりと、流れがごちゃついていたような。むしろネタを降りた後の平場のやり取りの達者さの方が最高に面白くて、バラエティ適正はめちゃくちゃ高いんだろうなと思った。

ボケの一つ「ズッキンズッキンプッチン不倫」がめちゃくちゃ滝音のワードっぽ過ぎて気になった。

 

ヤーレンズ

変な大家さんのネタ。

とにかく小ボケを連発するM-1っぽいスタイルのネタで、拾う拾わない問わず延々とボケ続ける数打ちゃ当たるみたいな手数の多さが凄くて、点数伸びるのも納得。このタイプ、ノンスタイルとかインディアンスに似ていて、その二組は個人的にはあんまり好きじゃないんだけど、ヤーレンズはツッコミの出井が出しゃばる感じがなくボソリと突っ込む感じが心地よく、またボケの楢原もちょけてるけど素に近い無理してない感じで喋り続けるので、そこら辺の違和感が少ないのが良いところかも。

 

真空ジェシカ

Z画館のネタ。

個人的に3年前の初出場からずっと応援しているが、もう一つ順位が伸びないのがなんとももどかしいコンビ。ボケを連発するコント漫才というところでヤーレンズとちょっと似てるところもあるんだけど、手数というよりは大喜利の質で勝負する感じで、一発一発のボケの精度だけで言ったら一番だと思うんだけど、その分刺さる人を選ぶのが伸びない要因なのかなぁ。大吉先生の審査振り返りPodcastでは去年より増えてた男性観客の笑い声は一番大きかったと言われてたし、令和ロマンが準決後に上げてたレポ動画では聞いた事ない男声のうねり笑いが起きてたと言われてたし、どちらかというと男性受けの方が大きいところがあるのかも。

M-1のネタだけで比較しても、明確に変わってきてるのが川北が割とネタ中に感情を乗せるようになってきているところで、これまでは人を食ったような飄々とした態度に終始していたところを、“B画館”を知らないガクにビックリしたり、演じる人が声を張り上げる場面があったり、昨年松ちゃんに「ボケとツッコミの声のバランスが逆」と言われたのをしっかり反映させてる感じがある。やや間延びしていた点を大吉に指摘された去年と比べてネタもタイトになっているし、我流を貫いてそうで意外と傾向と対策はしっかりしてM-1に寄せてる辺りが実は賢いコンビだなという感じ。

結果、その寄せた部分を松ちゃんと大吉先生には評価されたが、他の人はもっと奇抜なものが見たいと判断されたのかもう一歩点数が伸びず。平場で変な事ばっかりやってるからだから変なネタを見たいと思わせるのかもだが、実はそんなに奇抜なネタをやるタイプではないし(変なのもあるっちゃあるが明らかに賞レースむけではないし)、これ以上を求められるのってなかなか酷なのかも。個人的には、アリネタだが『ペーパードライバー講習』が大喜利の分かりやすさ、終盤の畳み掛けなども含めて賞レースに適してるネタなんじゃないかなーと思ってるんだけど、今更これで勝負してくるってことはないかな。実はしゃべくりネタもそれなりにあってしかも面白い器用なコンビだし、突飛なことをしてナンボみたいに思われてしまうとどんどん不利になっていくような……。そろそろファン以外にはまたかよと言われる枠になってきてしんどいところだが、いつかは最終決戦まで残って、あわよくば優勝する姿を見たい。

 

ダンビラムーチョ

カラオケの副業を始めるネタ。

何年か前の敗者復活戦で、バイト先のヤバいおじさんのネタやってたのが初見でその印象が強かったけど、去年の予選でヨーデルやら森山直太朗やらを歌いまくり、あげくふところからミニラッパを取り出して演奏したりと、歌を軸に変な事をやりまくっていたコンビ。決勝でもその異様さが何か確変を起こすのではと思って三連単予想でも2位に入れてたんだけど、結果あんまり跳ねなかった。

カラオケの伴奏部分を口でやるというのが変ポイントではあるが、それが自分の笑いのツボにはハマらず、正直に言うと全体的にどこを面白がればよいのかピンとこなかったかも。そもそも自分はカラオケにほとんど行かないし、歌ってた『天体観測』も『アイドル』もちゃんと聴いたことなくて馴染みがなかったというのもピンとこない要因ではあったが。

最初の『天体観測』を歌うのがやたらと長いという指摘に対して「それが面白いんだけどなぁ」とぼやいていて、たしかに“歌い過ぎ”というオモシロ要素は前述の森山直太朗のネタとかでもあったので分からんでもないんだけど、その割に途中で別のモードがあるみたいな話になったりとブレてる感じもいまいち。

 

⑨くらげ

色々な物を忘れてしまう杉にたいして、渡辺が次々と名前を出して確認していくと言うネタ。

去年のダイヤモンド、一昨年のももみたいな、シンプルシステム漫才枠とでもいうようなコンビ。坊主・コワモテ・アロハシャツというイカつい見た目の渡辺が何故かサンリオや口紅に異様に詳しいというところが面白いが、構成の中でそれを指摘するくだりがないのが気になった。くらげの代表作って初めて準決勝に来た時の「女心はわかんねぇけど」のネタだと思うんだけど、あちらはちゃんと「お前詳しいな」の指摘があったのに、今回は終始杉がすっとぼけているだけなので会話が産まれず一方通行で終わってしまう。最後のやり取りが数字というのもインパクトに欠けるような。

 

モグライダー

錦野旦の『空に太陽がある限り』のネタ。

一昨年の初決勝時の『さそり座の女』と同じく、歌詞の行間に勝手に意味を見出していく構成。『さそり座〜』はその年の中でも結構好きな方だったんだけど、今回はダメだったかも。まずともしげが前提条件の「錦野旦さんって面倒くさい女の人と付き合ってますよね」を甘噛みしまくって何を言ったのか分からず途中まで何してるのかが分からなかった。モグライダーとしてはともしげのアタフタがキモになるはずが、芝のターンも結構あってそこが停滞の要因になってしまっていたところ、歌詞の一節ごとにちゃちゃを入れるという形のせいで、歌ネタなのにリズムが著しく悪いところが良くなかったのかも。失敗しまくって最後に成功という流れなのに、一番最後もともしげが噛みまくって何言ってるのか分からないのに成功っぽい扱いになって終わりというのもなんか腑に落ちなかった。

 

 

以上1stラウンド。

個人的な順位はこんな感じ

真空ジェシカ

②令和ロマン

ヤーレンズ

さや香

⑤カベポスター

⑥シシガシラ

マユリカ

⑧くらげ

ダンビラムーチョ

モグライダー

 

全体的に尻下がりな感じというか、途中から妙に客が重くなったように思えたが、最終決戦の令和ロマンがまた爆発していたところを見ると、ボーダーにいた令和ロマンに落ちて欲しくないという気持ちが潜在的に観客にあったのかなぁと思ったり。今年のキングオブコントでも、三番手で3位になったや団が結構ギリギリまで残ってたということがあったけど、そういう基準点を作らざるを得ないような印象深さを一番手で弾き出してしまった令和ロマンが場を掌握する力があり、さや香ヤーレンズ以外はネタの良し悪しとは関係なくそれを打ち破る空気感を作り出せなかったということなのかな。

結果、1本目とは違ったテイストの強ネタを持ってきた令和ロマン、同系統のネタで勝負したヤーレンズ、珍妙な『見せ算』で勝負を賭けたさや香の戦いで、令和ロマンが優勝したわけだけど、見せ算もひょっとしたら爆発する可能性を秘めたネタでもある?し、どこが勝ってもおかしくはないかなと思った。だからこそ、真空に行って欲しかったところはあるが……。

霜降りとはまた違った方向性でお笑い勢力が変わりそうな若手である令和ロマンの優勝で、今年一年お笑い界がどうなっていくのか、そして今年から一新された予選審査員が小慣れてきて来年どんなジャッジをするのかでまた大会の雰囲気も変わってきそうだし、本当に令和ロマンが連続出場するのであればまた荒れそうだしで、来年のM-1がどうなっていくのか、なんだかんだ楽しみ。