【ゲーム感想】ディスコ エリジウム(2019)|記憶喪失刑事の自己再生追体験

 

【あらすじ】

記憶喪失状態でホテルの一室で目覚めた男は、周りの人の話から自分が刑事であり、ホテルの裏で首つり死体が発見された事件について捜査しに来たことを知る。一緒に行動することになった相棒のキム・キツラギ刑事と共に、港湾労働者組合が牛耳る町・マルティネーズを駆け回ることになる……というお話。

 

【ゲームについて】

システム

エストニア産のロールプレイングゲーム

最初に知性、精神、肉体、運動能力のアビリティに決められた数値を割り振り初期ステータスを作ったり、劇中の選択肢の一部はダイスロール(という体の乱数)で成功・失敗が決まったりと、TRPG的な要素が強い。

アビリティはそれぞれが主人公の能力にそのまま直結していて

◆知性⇒世界に対する知識や芸術的感性、論理思考など

◆精神⇒意志の強さ、共感力、コミュニケーション能力など

◆肉体⇒物理的ダメージへの強さ、酒・ドラッグへの興味、マチズモ的思想など

◆運動能力⇒銃・スリのスキル、咄嗟の身のこなしのような瞬発力に関する能力

を表している。

ここでどうポイントを振るかが主人公の人格形成に大きく関わっていて、自分はデフォルトで用意されていた「知性は高いが人付き合いは苦手」というアーキタイプにした結果「知性5、精神1、肉体2、運動能力4」という能力になった。これは他人の言動から物事を推理したり、世界に対する知識を捜査に役立てたりすることが出来る一方で、町のクソガキに罵られただけで心がおれてゲームオーバーになったり、出来心でポストを蹴っ飛ばしただけで致命傷を負ったりと、異常に打たれ弱い頭でっかちのへぼ刑事になって面白かった(精神面や肉体面はスキルアップや回復アイテムで簡単に補強できるので後半はそこまで気にならない)。

 

 

【キャラクター】

主人公

主人公は前述の通り記憶喪失の男で、最初は自分の名前すら分からない状態。捜査の過程で自分の失われた記憶を思い返していくことになるんだけど、それがそのままキャラビルドに繋がっていくのが面白かった。このゲーム、とにかく選択肢が豊富なので、すぐに謝る気の小さい刑事、酒とドラッグのことしか頭にない享楽刑事、ゴリゴリの共産主義者、自分の事をスターだと思い込んでいる精神異常者など、どんな人間にでもなれるのが良いところ。

JRPGなんかでは特に「はい」か「いいえ」、もしくは「はい」か「うん」みたいな何を選んでも何の影響もないという虚無の選択肢を選ばされることが多いが、今作はすべての選択が主人公の経験・思想として蓄積されていくのが、自分の操作がキャラクターを作り上げているという没入感に繋がっていく。

さらに、先ほどのスキルについてもただの能力値というだけでなく、それぞれが異なる人格を持った存在として主人公にことあるごとに話しかけてくるという特徴があり、これがこのゲーム最大の特徴といっても良いかもしれない。4つのアビリティごとに6つのスキルがあるので、全24個もの異なる思考があるということ。

例えば「知性」アビリティの「百科事典」スキルはゲーム内世界の設定について詳しく固有名詞についての解説をしてくれるし、何かをスリ盗りたいときは「運動能力」のスキル「手さばき」が的確なタイミングを教えてくれるなど、特に高く振ったスキルは色々なところで役立ってくれる。全く異なる性格が同居していることで、偶にスキル同士で意見が食い違い、主人公そっちのけで喧嘩が始まったりするのも面白い。

ある程度枠組みはあるものの、自分の好きなようにキャラ付けすることが出来るという正しい意味での「ロールプレイング」が出来る主人公で、自分は正義寄りの選択肢を選んでいたが、思いっきり嫌な奴を貫き通したりするのも面白そう。

 

相棒 キム・キツラギ

魅力的なキャラクターの多い今作だが、やはり相棒のキムが一番良いキャラクターだった。

見た目はアジア系で眼鏡のひょろながおじさんという感じで、第一印象はいまいち冴えない感じがしたが、時にめちゃくちゃなことをやり始める主人公をたしなめつつも騒ぎに乗っかってみたり、自分の趣味の領域の話になるとちょっと饒舌になっちゃたりと、真面目キャラでありながらもそれ一辺倒ではない人間臭さが垣間見えるところが魅力的。この手のキャラは解説役に回りがちだが、その役目は自分の思考をはじめとした会話外の部分で賄われているので、説明臭くないしっかり血の通った一人の人間として存在しているというのが良かったのかも。

このゲームで最も緊張感のある、事件のターニングポイントとなる場面で現れるキムに関するある選択肢がこちらを泣かせる実に味わい深いもので、あくまでシステムとしてそっけなく書いてあるだけなのもまたニクい。

 

【雑感】


プレイ時間は寄り道含めて30時間くらいだったが、その大半がテキストを読んでいる時間だったと言えるくらい膨大なテキスト量で、しょっぱなから固有名詞や難しい言い回しも多いことから異様なとっつきにくさがある。会話自体は崩した表現も多く茶目っ気もあるので、文字の多さに慣れれば読むのは楽しいんだけど、合わない人も多そうではある(自分もほとんど本読まないので序盤は結構しんどかった)。

世界観はかなり作りこまれており、舞台となるマルティネーズ以外の国々がどのような歴史をたどってきたのかなどが細かく語られるが、その全てが事件にかかわってくるかと言われるとそうでもないので、設定の膨大さと事件のリンクに期待しすぎてしまうと若干肩透かしかも。開発者のロバート・クルヴィッツ氏は元々ゲーム製作者ではなく小説家で、今作と自身の別の作品の世界観を共有しているようなので、あくまでロバート氏の脳内世界で起きた一つの事件…ということみたい。それならいくらでも話を拡げられそうじゃんと期待したが、どうやら彼と会社がもめて裁判沙汰になったりしているようなので、続編は絶望的かもしれないのが残念。

付け焼き刃では無い膨大な設定が背景にあり、自分がその世界の一員になったかのように没入できる作品で、何もかもが明らかになるわけでは無いというボリューム感もちょうど良かったかも。『デトロイト』や『ラスト・オブ・アス』をプレイした時、まるでハリウッド映画の世界を体験できたかのような興奮があったんだけど、今作はそれらとはちょっと違うヨーロッパのちょっと変わった映画の世界観に入り込んだような感覚があって、そこら辺のちょっとニッチな雰囲気もまた面白かった。